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ノイタミナオンデマンドCREATORS INTERVIEW

『ノイタミナ』に携わるクリエイター達にスポットを当てたインタビュー記事を公開

Special Interview

中村健治Kenji Nakamura

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PROFILE
『怪 ~ayakashi~「化猫」』シリーズディレクター、『モノノ怪』シリーズディレクター、『墓場鬼太郎』オープニング/エンディング絵コンテ・演出、『空中ブランコ』シリーズディレクター、『C』監督、『つり球』監督
ノイタミナだったら、
自分のつくりたいものをつくれるんじゃないかと思える

「業界の「良心」であってほしい」

ノイタミナ最多参加監督の想い

ノイタミナが10年目に突入しました。この10年で、中村監督はノイタミナ監督作品をもっとも多く手がけられてきた監督になります。そこで、このインタビューシリーズでも最初に中村監督からスタートしようということになりました。

中村本数は多いかもしれませんね。でも、最近は疎遠なので(笑)。

いやいや、なにをおっしゃる。中村作品は人気も高いです。先日、視聴者の人気投票を実施したのですが『モノノ怪』の薬売りが男性1位。女性5位に『C』の真朱がランクインしました。

中村そうなんですか。薬売りは色男ですからねえ。そのランキングは、僕はさりとて、キャラクターをデザインされた方々が喜ぶでしょうね。声を当てられた方々も嬉しいと思います。

ノイタミナ枠に対して、中村監督はどんな印象をお持ちですか?

中村ノイタミナって、いろいろな監督さんが作品をつくりたいと思える場所のようなイメージがあります。「あそこに行けば、自分のつくりたいものをつくれるんじゃないか」みたいな。ノイタミナには「あこがれ枠」みたいなところがあって。クリエイターサイドから言わせてもらうと、業界の「良心」のような(笑)。そういうイメージが……いや、そういうふうに今後もなっていてほしいなと思います。「良心」っていうのは、どういうことかというと、グラグラ揺るがないという意味でもあると思うんですけどね。

ありがとうございます。そんなノイタミナに中村監督が初参戦した作品は『怪~ayakashi~』(三編中の一編『化猫』)でした。こちらは中村監督の初監督作品でもあったそうですが、どういう経緯で参加することになったんですか?

中村『ワンピース』や『プリキュア』シリーズを手がけている、柴田宏明という東映アニメーションのプロデューサーがいるんですが、下積み時代に彼といっしょに制作進行をやっていたんです。彼は社員で、僕はフリーランス契約で。そこで親交があったんですよ。彼はプロデューサーの道に進み、僕は演出家の道に進んだので「いつか仕事できたらいいね」と話をしていたんです。それで最初にオリジナルビデオの『イリアの空、UFOの夏』という作品で呼んでいただいて、その次に『怪~ayakashi~』のオファーをいただいたんです。

「失うものは何もなかった」

初監督作で花火を仕掛ける

最初に『怪~ayakashi~』の企画を知ったときの印象はいかがでしたか。

中村最初に「怪談をアニメでやってください」と企画書を見せられたんですが、僕はアニメと怪談ってマッチングが悪いと思ったんですよ。そのうえ『怪~ayakashi~』の3編中、僕の担当作以外の2作がビッグネームの演出家が監督することになっていて。当時の僕は演出本数も2本目~3本目のペーペーでしたから、これはずいぶんアウェイな企画だなあと思いましたね。企画の打ち合わせをするときも、柴田君以外のプロデューサーからはほとんど放っておかれて、ノーマークだったんです。

いわゆる逆境だったんですね。

中村当時、僕はある年齢までに監督ができなかったら、この業界を辞めようと思っていたんです。この『怪~ayakashi~』の話が来たことで、そのデッドラインにはギリギリ間にあった。そういうこともあって、失うものはない状態だったんです。しかも、『怪~ayakashi~』に参加している僕以外の監督はすごい実績をお持ちの方ばかりだったので、ロウソクのように消えてしまう前に花火を打ち上げておこうと。

それで『化猫』の極彩色な映像ができたんですね。

中村当時、自分が何を考えていたのかはよく覚えていないけれど、それまでの「怪談のアニメ」にピンときていなかったんでしょうね。アニメというと時代劇でも、現代劇でも画面のつくりが同じになってしまう。なんでもっと違う画面をつくらないのかなと思って。
今でこそ当たり前の映像手法なんですが、3DCGでレイアウト(画面設計)をつくることや、特殊なフィルターをかけることに挑みました。ただ当時はスタッフにとって初体験な手法が多くて「これってアニメなの?」と、現場の雰囲気がすごく微妙だったんですよ(笑)。
一部のとんがった人間は「イケるイケる!」と言っていたんですけど、ほかの8割くらいの人は「これ、上の人に見せたら放送しちゃいかんって言われるんじゃないか」と言っていたので、僕は恐くてドキドキしていたんです。ところがノイタミナで放送をした直後に、脚本の横手美智子さんからメールをいただいて。叱られるんじゃないかと思ってメールを開いたら、絶賛のおことばだったんですよ。
それで有頂天になって「2ちゃんねる」を見たんです。基本的に「2ちゃんねる」は荒れているし、ひどいことを書かれる場所という印象があったんですが、そこで『化猫』はすごくほめられていたんですよ。中でも「来週も観る」っていう感想があったことが一番うれしくて。
それで「やるぞ!」と思ったのを覚えていますね。制作現場はすごい修羅場だったんですが、「2ちゃんねる」の反応を知ってスタッフがニコニコしはじめたんですよ。チームがひとつになって、折れかかった心がシャキンとなった。だから、2ちゃんねるの人たちやアニメファンにすごく感謝をしていますね。

「すごく勉強になった作品」

『化猫』で手に入れた成果と経験

『化猫』の反響はいかがでしたか。

中村そこで盛り上がってくれた人たちは、ユーザーでいうとアーリーアダプター的な人だったと思うんです。祭りに参加する人たちではなく、祭りを起こす人たち。それに気づかなかったから、僕は『化猫』のDVDがすごく売れるのかなと思っていたんです。でも、実際には大して売れず。視聴率は良かったからフジテレビの方からは褒められたんですが、制作会社からは「大赤字だ」と言われて。すごく勉強になった作品になりました。

ノイタミナ参加2作目となる『モノノ怪』は、『化猫』の流れを汲む、シリーズ作品となりましたね。

中村僕がTVシリーズをつくるにあたり、前作の反省からDVDやBlu-ray Discのことをしっかり考えたんです。当時のメーカーだったアスミック・エースさんとじっくり話し合いました。そうしたら、やはり長いシリーズものになるとDVDの1巻だけがたくさん売れて、2巻以降は売り上げが徐々に下がっていくというんですね。ならば『モノノ怪』はあえてオムニバスものにして、DVDの一巻ごとに完結する作品にしたうえで、一巻ごとに違ったテイストでつくって実験してみようと。たとえば、大好きだった3巻だけを買うようなお客さんがいてもかまわない、というつくりを考えたんです。当然、アスミック・エースさんとしてはシリーズ全巻が売れてほしいわけで、いろいろなリクエストもあったのですが、そこは視聴者の視点に立っていただいて。最終的に、メーカーさんも戦略を変えてくださった。そういうふうに作品をつくることができた、幸せな作品だったと思います。(続く)

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