『ノイタミナ』に携わるクリエイター達にスポットを当てたインタビュー記事を公開
攻めている枠だからこそ
放送できるアニメの姿
このたびノイタミナも10年を迎えました。ノイタミナ作品の中で、虚淵さんの印象に残っている作品はなんですか?
虚淵『怪~ayakashi~』の『化猫』を見て、そのビジュアルに驚いたんですよ。それが拡大して、さらに『モノノ怪』というシリーズになる。あんな映像を地上波に流したということが、もうすごいよな、と。ノイタミナ作品というだけで、ちょっと違うカラーを感じていましたね。それもあって当初は、わりと斜め上の作品ばかりをアニメ化するんだと思っていたんです。そういう固定観念を持っていたからこそ、『ギルティクラウン』には驚きましたね。「そういうのもやるんだ!?」って。あれはわりとストレートな深夜アニメの作品でしたからね。要するにノイタミナは何でもありなんだなと。「モノノ怪」の印象が強烈だったこともあって「攻めている枠」という印象がありました。これからおきるだろう何かを期待させる枠ですね。
虚淵さんはノイタミナに『PSYCHO-PASS サイコパス』で参加されましたが、ノイタミナらしさを意識したことはありましたか?
虚淵最初に『PSYCHO-PASS サイコパス』の脚本の話をプロダクションI.Gさんからいただいたときは、実写に片足を突っ込んだ作品をつくろうとしているんだろうなという印象がありました。その場に本広克行さん(総監督)がいましたし、本広さんで、しかも刑事ドラマで……となれば『踊る大捜査線』シリーズを意識せずにはいられませんからね。そんなアニメを放送できるのはノイタミナだけだろうという思いはありました。
タイトなスケジュールの中で
求められた精度の高さ
ノイタミナ作品の制作現場での思い出を教えてください。
虚淵そもそも前提が無茶だったんですよね。4月にお話をいただいて、来年の10月スタートといわれたんです。脚本に取り掛かったときは、すでに放送まで1年を切っていた。それで全22話の脚本を書き上げないといけなかったんです。1週間に1度のホン読み(脚本打ち合わせ)があって、2週間で決定稿までこぎつける。1回でも全リテイク(全部書き直し)になったら終わり……というスケジュールだったんです。いうならば残機ゼロ(1度ミスをしたらゲームオーバー)の状態で、第1話から第22話まで駆け抜けなければならなかった。まさしく綱渡りでしたよ。実際にやってみたら、だいたい2稿で決定稿……稿を重ねても4稿で決定稿にたどり着くことができました。脚本執筆中はかなり冷やひやしましたよ。
かなり精度の高い脚本が、最初から求められていたわけですね。
虚淵『PSYCHO-PASS サイコパス』は共同脚本の体制で臨んだので、それが功を奏したといえるでしょうね。ホン読みの前に自分と深見真さんで1時間早く集まって先のプロットを練るんです。その後、塩谷監督や本広さん、山本さん(山本幸治チーフプロデューサー/ノイタミナ編集長)などスタッフを交えてホン読みという感じでしたね。脚本そのものは深見さんに草稿を書いていただいて、その草稿をもとに自分が加筆して初稿にする……そういう流れで書くことができたので、初稿の段階でかなりの精度が高いものが仕上がっていたと思います。
当時、深見さんはアニメの脚本初挑戦。そんな彼を現場に招いたのは虚淵さんだったんですよね。
虚淵当時、ソフトな魔法少女ものの脚本を書いていましたから、それと同じようなふんわりした感じにしちゃいけないよなと思ったんですよね。同時並行で進んでいたのが明るい海洋冒険ものの『翠星のガルガンティア』でしたし。『PSYCHO-PASS サイコパス』ではハードで陰惨なトーンにしておきたいと思ったんです。そこで僕よりも血のにおいのするライターを連れてこないといけないなと、深見さんにお声掛けをしました。彼はアニメの現場がはじめてだったので、書いていただくときはアニメの脚本としての体裁にこだわらず、かなり自由に書いていただきました。草稿なので、どうしても脚本の初稿になるときは原型をとどめていなかったりするんですよ。でも、とっかかりのアイデアや足がかりがあることが大事で。それがあるからアニメとして成立させること、尺を収めること、もっとドラマチックにすることに自分が専念できたんです。結果として、かなり上手く回ったんじゃないかと思いますね。
山本プロデューサーと
ことばを交わしたホン読み
そのタイトなスケジュールのホン読みで印象に残っていることは?
虚淵そのタイトなスケジュールのホン読みで印象に残っていることは? 虚淵 そうですねえ。ホン読みの間はひたすら山本さんと口論をしていたような記憶があります(笑)。塩谷直義監督や本広総監督は脚本を説明すると一発で納得してくれるんです。でも、山本さんは細かいところにこだわって。「これはどうなんだろう」とやりとりすることになるんですよね。その中で口論することもある。わりと最後のほうは納得してくださるんですけど、それでもやっぱり脚本に引っかかるのは山本さんでした。しかたがないですけどね、責任をとらないといけないポジションでしょうから。でも……やっぱり『PSYCHO-PASS サイコパス』のホン読みはずっと山本さんと話をしていた記憶しかないんですよ。……おかしいな『ギルティクラウン』でお会いしたときはあんなに静かにされていたのに!
そうだったんですね。
虚淵弊社(ニトロプラス)の脚本家の鋼屋ジンが『ギルティクラウン』に参加していたので、何回かホン読みにお邪魔したことがあったんです。そのときの山本さんはむしろ気配を消しているくらいの印象の薄さだったんですけどね(笑)。
そんな『PSYCHO-PASS サイコパス』の制作過程で驚いたことは?
虚淵最大の驚きはやはりキャラクターデザインですよ。天野明さんのキャラクター原案が本当にすばらしかった。かなり早い段階から山本さんが、天野さんにアプローチしてくださって。それが実現して。実際に絵をあげてくださったとき、『PSYCHO-PASS サイコパス』が変わりましたし、方向性が決まりましたね。わりと最初に想定したラインは「じじくさくて、バタくさい」だったんです。なんといっても企画段階での狡噛慎也は既婚者でしたからね。無精ひげをはやした男で「昭和の刑事もの」みたいなテイストを考えてはいたんですが、天野さんのキャラクターがあがってきて、グッとスタイリッシュになりました。
(続く)