『ノイタミナ』に携わるクリエイター達にスポットを当てたインタビュー記事を公開
媚びないキャラクターが
高く評価されて
『PSYCHO-PASS サイコパス』を放送して、ノイタミナならではの反応や手ごたえはありましたか?
虚淵毎週の放送前の土曜日に「ノイタミナショップ&カフェシアター」で先行試写会をしているのが印象的でしたね。最終回(第22話)をショップで拝見したんですが、あれはおもしろい体験でした。こんなにも『PSYCHO-PASS サイコパス』のファンが女の子だらけだったのかと。それがびっくりで、その場でサイン会まで開いちゃったんですけどね。
女性から反応されることは想定していましたか?
虚淵いや、『PSYCHO-PASS サイコパス』はかなりバタくさいものになるかもな、という予感があったんです。その印象を覆してくださったのはキャラクターデザインと声優さんだと思います。本当に感謝を捧げたいですね。放送前は正直、どんな方が支持してくださるのかわからなかったんです。そもそもヒロインはおっぱいもパンツも見せませんからね。少なくとも男性には受けにくいだろうなと。でも、まあノイタミナだし大丈夫かなと思っていました。サービスが少ないキャラクターだけど、それが許されるのもノイタミナなのかなと。
ノイタミナのノイタミナラインナップ発表会2014では、ノイタミナ作品のさまざまなランキングを決める「ノイタミナ10thヒストリーランキング」が行われました。そのとき「あなたが一番好きな櫻井(声優の櫻井孝宏さん)キャラは?」で槙島聖護が1位(得票率38.9%)、「好きな女性キャラは?」で常守朱が1位(得票率21.4%)、「あなたの好きな男性キャラは?」で狡噛慎也が1位(得票率17.6%)宜野座伸元が3位(得票率12.4%)でした。このランキングを虚淵さんはどう受け止めていましたか?
虚淵正直、この人気には勇気づけられますよね。いわゆるジャパニメーションの「萌えキャラ」みたいなテンプレートから外れたものでも、お客さんのもとに届くんだなと。作る側としては先に繋がる勇気になりますね。
そのなかで宜野座の人気はどう思いますか?
虚淵あれは僕なりのメガネエリートをいじめたいという気持ちが表に出てしまったもので……。それを受け入れていただけたのは本当に感無量なんですけど。そんな煩悩まるでだして良かったのかなって(笑)。
第2期と劇場版による
新しい展開へ
『PSYCHO-PASS サイコパス』第2期と劇場版が決まったとき、虚淵さんはどんな気持ちでしたか?
虚淵別にロボットがでるわけでも、超能力がでるわけでもない。ガチガチのSF設定の作品なので、幅広くからは受けることはないのかなと思っていたんです。正直、SFというジャンルは日本では下火になっているのかなという一種の諦めがありました。それをひっくり返すことができて本当にうれしかったですね。しかも『PSYCHO-PASS サイコパス』のスピンオフも含めて派生展開が受け入れられていることがうれしい。単体の全22話の作品だけではなくて、「人間の精神状態が数値化された世界」という世界観が受けたんだなと。まだまだ日本でもSFがいけるのかなと励まされました。『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界観をつかって、物語をどんどん広げてもらいたいです。
劇場版は「ノイタミナムービー」の第一弾作品となります。虚淵さんは劇場版化についてはどう思いましたか?
虚淵うーん、あえていうならば、ノイタミナはちょっと劇場版のスケジュールについて考えたほうがいいと思いますよ、ええ(笑)。今回『PSYCHO-PASS サイコパス』の2期があって、劇場版があるわけですよ。そのスケジュールはさすがに無茶じゃないですかね(笑)。
おお、それはおっしゃるとおりです。
虚淵冷やひやしますよね。TVシリーズと劇場版は同じカロリーではできないですからね……。僕もいま劇場版の仕事をするようになって感じますが、劇場版はシビアな世界ですからね。でも、塩谷直義監督は「劇場版BLOOD-C LAST DARK」もおつくりになっていて、劇場版の経験をおもちなので、そのあたりは信頼しています。
10年目に掲げ、20年目を
目指す矜持
ここからはノイタミナという枠について、いろいろとお話をうかがいたいと思います。まず、ノイタミナのいいところがあればお聞かせください。
虚淵良いことですか。……やはり、既存のマーケティングにとらわれず、おもしろさを第一に考えているということですね。こちらの「おもしろい」という価値観が通じることです。
勇気を振り絞ってお聞きしますが、ノイタミナの悪いところは……?
虚淵ノイタミナって各話の尺(放送時間)が、通常のアニメよりも1分短いんですよ。オープニングをとると、実質19分50秒。その短い1分がけっこう厄介になるんです。全体の5%ですからね。その1分あればやれることってけっこうあるんです。よその放送枠なら(このネタが)できるのに……と思っちゃうこともありましたね。
ノイタミナ枠のフォーマットの特殊さが、シナリオライターの作劇に影響しているわけですね。
虚淵ボクシングだったら、階級をひとつ分絞らないといけないぐらいの減量ですね。1分長い『PSYCHO-PASS サイコパス』だったら……まずホン読み(脚本打ち合わせ)が毎回30分早く終わったでしょうね。30分は「どこを切ろうか」と打ち合わせしていましたからね。
ノイタミナでやってよかったことがあれば、お聞かせいただけますか?
虚淵『PSYCHO-PASS サイコパス』という作品自体が、ノイタミナだからこそできた作品だと思っています。ノイタミナだったから、こちらがやりたいと思ったことが全部映像になった……というところはあります。変なマーケティングを要求されなかったんですよね。「お皿(DVDやBlu-ray Disc)を何枚売らないといけない」みたいなプレッシャーはなかった。終始プロデューサーがそれを言い続けるような現場ではなかったので。1期の売り上げが低かったから、2期ではもっとサービスしましょうとか、そういう発想を持っている人でもないし。そこは山本さんと仕事をしていて楽しいところでもあるなと思いました。
ノイタミナで今後やってみたいことは?
虚淵そうですね。ノイタミナという枠そのものが、どんな作品でもつくれる枠になっていると思います。そのときそろったスタッフィングにあわせてつくる作品は変わってくるでしょうね。強いていうならば、あとに残るものをつくりたいと思います。ノイタミナはブランドを意識して、歴史を積み上げようとしている。今回のように過去を振り返ってもらえるというのは、つくる側としてはとてもありがたいことで。ノイタミナで作品をつくる以上はただの消費物にならないってことですからね。その安心感はうれしいです。10年後のみなさんに思いだしてもらえる作品を。時代が経っても、どこに出しても、はずかしくない作品をちゃんとつくらなくてはいけない。それが今後のノイタミナでやってみたいことですね。
虚淵さんにとって『PSYCHO-PASS サイコパス』はどんな作品になっていますか?
虚淵正直言って、ここまで引っ張っていく作品になるとは思いませんでした。化けたな、という感覚があります。うれしい誤算でもあるし、頼もしい作品になりました。
10年目のメッセージをいただけないでしょうか?
虚淵10年目になったということは、20年目まで続くと思うんですよ。20年目も尖った作品をつくり続けられるよう、日本のアニメーションの矜持を掲げた枠であってほしいと思います。
(終わり)