『ノイタミナ』に携わるクリエイター達にスポットを当てたインタビュー記事を公開
放送局といっしょに
作品をつくるということ
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の制作面で、特殊なことはありましたか?
長井『あの花』の舞台である秩父にロケハンに行きました。ロケハンに行くのは『ハチミツとクローバー』のときもよくやっていて。カサヰケンイチ監督といっしょに、大きな観覧車を見に行ったり、美術大学に行ったり。まるで実写作品をつくるかのような工程で、アニメ作品をつくることができたんです。ちょっと実写のにおいがする、作品づくりのスタイルはノイタミナっぽさかもしれませんね。
おもしろいですね。ノイタミナに関わって「驚いたこと」はありますか?
長井放送局の方(ノイタミナのプロデューサー)が毎回、ホン読み(シナリオ打ち合わせ)に出席してくださることですね。いっしょに作品をつくっている感じがします。アニメをつくっていると、放送局は「(つくった作品を)放送してもらう場所」という立場になりがちなんですけど、ノイタミナは作品をいっしょにつくってくださる。それこそ……ホン読みの初期に「安城鳴子さん問題」がありまして。
安城鳴子のあだ名「あなる」が放送上どうか、という問題ですね。
長井それをノイタミナのプロデューサーさんが事前に確認をとってくださったり、「未成年だけで花火を打ち上げられるか」を法律的に調べていただいたり、そういう部分もしっかりバックアップしてくださったのはとても助かりました。あと、ノイタミナに関わって、僕はスーツを買いました。
スーツ?
長井『あの花』の解禁直後に、「ノイタミナラインナップ発表会」があったんですよ。その年の発表会(2011年)は1月クール、4月クール計4作品の監督が全員、しかもスーツで出席するという話で。でも、僕はスーツを持っていないからということでお断りをしていたんです。そうしたらノイタミナのプロデューサーの方とアニプレックスの宣伝プロデューサーの方がノリノリで「スーツを買いにいきましょう」と。みんなで渋谷で買いに行って……すごくいい経験になりました。あのスーツはいまでも一張羅になっています。
そんなことがあったんですね(笑)。
長井あと『あの花』がオンエアをはじめると、秘密基地(超平和バスタ―ズの秘密基地/2011年6月3日より渋谷パルコ パート1、以降各地展開)を展示していただいたり、めんま(本間芽衣子)の等身大立像(「あの花夏祭 2013」)をつくっていただいたり、盛り上げてくださったのはすごかったですね。『ハチミツとクローバー』のときからノイタミナはそういうスタンスで展開してくださるから、うれしいです。
そうやって作品の外側でどんどん盛り上げていくことを知って、現場で監督はどんなお気持ちでいらっしゃるのでしょうか。
長井自分だけおいてけぼりな感じです(笑)。いつも思っているんですけど、みんなが「(この作品は)イケるはずだから」といろいろな企画が立ち上がるのを、僕は「いや、そんなにイケるわけがないから」と若干一歩引き気味で見守っているという。アニプレックスの宣伝プロデューサーに宣伝計画を聞いたとき「『ANOHANA FES.(あの花フェス)』として、秩父に5000人の会場を押さえました!」とおっしゃっていて。さすがに「それはやりすぎだろう!」と思いましたね。でも、早い段階からそうやって準備していてくれたからこそ実現したわけで。まあ、いまとなってはありがたいと思っていますけど。宣伝する人が突っ走るので、僕らはついていく(笑)みたいな流れになっていたのは、とても新鮮な体験でした。
結果として「良かった」わけですね。
長井いやー、いまだに思いだしても、あれはハラハラしますよ。当時は「雨が降ったらどうするんだ?」って思いましたし。
お客さんの顔を生で
見ることができる場
手ごたえを感じたことは?
長井やはりイベントでお客さんの顔を生で観れたことですね。秩父でやった「ANOHANA FES.」だけでなく、お台場で「あの花夏祭」を実施していただいて。手ごたえといいますか、お客さんが喜んでいる顔を見られたのは良い経験になりました。
「あの花夏祭」では劇場版の発表が行われましたよね。
長井そうでしたね。発表した時点では、何も決まっていませんでしたけどね(笑)。あの時点になるまで『あの花』が劇場版になるなんて、考えたこともなかったんです。最初は気軽な気持ちからはじまって、ある程度の結果に結びつくことができて良かったです。
劇場版の公開直前には、ノイタミナで再び『あの花』が放送されました。
長井いやあ、まさかオープニング映像を新曲でもう一度つくることになるとは思いませんでした(笑)。こういう体験ができたのも貴重だったと思います。
ノイタミナの良いところと悪いところがあれば、ぜひお聞かせください。
長井良いところは……観てくれる人を広げてくれるところ。ノイタミナは視聴者を広げようという気持ちで作品づくりに携わってくださるので、それはこっちとしてもうれしいし、頼りになりますね。悪いところは……尺が短いところ。本編の尺が19分50秒しかない。『あの花』ではエンディングの時間を僕はわりと自由に使わせてもらったんですが、本編の尺がほかの作品よりも約1分短いということがなかなか難しいです。僕がほかの作品のフォーマットに慣れてしまっている、というのもあると思うんですけど。
同じ時間に同じ作品を
見るという貴重な体験
ノイタミナに今後望むことはありますか?
長井ノイタミナには今後も「リアルタイムで観られる枠」として残ってもらいたいです。いまの深夜アニメって基本的には録画して視聴されていることが多いと思うんです。それはそれで良いと思うんですが、やはり地上波でみんなで同じ時間に観るという作品も残ってほしいなと。フジテレビ系列の放送局や各地の放送局で、全国同じ時間に作品を放送していただけることで、ひとつの大きなつながりがつくれる。様々な場所で同時刻に同じ作品を観るということはテレビの魅力のひとつでもありますから。ぜひ、ノイタミナには今後もそうあってほしいと思っています。
ノイタミナでやってみたいことはありますか?
長井いま、ノイタミナ作品ってすごく幅が広がっているじゃないですか。どんな作品がオンエアされても、ノイタミナという枠が納得させてくれるような気がする。ラインナップを振り返るだけで、びっくりしますからね。うーん……メカものをやってみたいです。ロボットものや戦闘ものというよりは、レースものをやってみたい。いま、レースものってないですからね。
ノイタミナ10年目にかけることばがあればぜひひとこと。
長井ノイタミナが10年目ということは、自分の監督生活は……今年8年目? もうすぐ10年。そう思うと感慨深いですねえ。ノイタミナには純粋に作品を楽しめる場として、これからもあり続けてほしいと思っています。
(終わり)