『ノイタミナ』に携わるクリエイター達にスポットを当てたインタビュー記事を公開
独特な個性が並び、
統一感がないところが良い
塩谷監督はノイタミナに『PSYCHO-PASS サイコパス』で初参加ということになりますが、そもそもノイタミナという枠にどんな印象をおもちでしたか?
塩谷僕がまだアニメーターで原画の仕事を始めた頃に、ノイタミナがはじまったんです。たしか最初は『ハチミツとクローバー』(以下、『ハチクロ』)ですよね。
2005年の作品です。
塩谷深夜のアニメ枠としては、刺激的な作品をするなと思ったんです。『ハチクロ』のときは普通の一番組がはじまるというよりも、ひとつのくくりとして枠がはじまったんだな、と。すごく新鮮な印象がありました。Production I.Gでいうと、神山健治監督のオリジナル作品『東のエデン』がありましたよね。やっぱり神山監督は、僕にとっても特別なリスペクトを捧げている監督さんでもありましたし、『東のエデン』やノイタミナのオリジナル作品は、いつも気になって見ていました。
印象に残っている作品はほかにありましたか?
塩谷『ハチクロ』や『怪~ayakashi~』を観ていましたね。あと『のだめカンタービレ』……ああ、『墓場鬼太郎』も良かったです。うーん『坂道のアポロン』も観てたなあ。やっぱりどれも独特な作品が多いですね。どの作品も個性がはっきりしていて、いい意味で枠に統一感がないのがおもしろいです。萌え系の作品をつくるわけでもなく、原作のあるなしに限らず、オリジナリティのあるとがった作品をつくろうとしているのが良かったです。橘(正紀)さんの『東京マグニチュード8.0』もノイタミナでしたよね。
『東京マグニチュード8.0』は、『東のエデン』の直後の作品で。図らずも神山監督とゆかりのある橘監督(※)がノイタミナ枠を引き継いだかたちになりました。
塩谷そのあたりの流れもおもしろいですよね。オリジナル作品もたくさんあるし、例えば中村健治監督も、大森貴弘監督も独特なオリジナル作品をおつくりになっている。ちょうど『PSYCHO-PASS サイコパス』を放送する一年前に、社内ではノイタミナで放送していたオリジナル作品の『ギルティクラウン』をやっていて。僕自身は直接作品に関わってはいなかったんですけど、大変なことをやっているなあって思っていました。
いろいろな角度の意見が入り
作品が丸くなる
それこそ塩谷監督の『PSYCHO-PASS サイコパス』もオリジナル作品です。
塩谷『PSYCHO-PASS サイコパス』では、本広克行さん(総監督)をはじめ、おもしろい方々と作品をつくれることが何よりも刺激的でした。みんな、ノイタミナだから「普通のことをやっても、意味がないな」といろいろ挑戦しようと思っていましたよね。そんな特別な場をノイタミナに用意していただいて。その枠で放送できるというのは、やはりおもしろい経験でした。
ノイタミナ作品の作品づくりの現場は、どうでしたか?
塩谷現場には、本広さんや虚淵玄さんもいましたし、作品に『踊る大捜査線』のテイストや、「警察モノ」「群像劇」といういろいろな要素をいれようとしていたんです。いろいろな方が参加しているからこそ、いろいろな角度の意見が入ったおもしろい作品にまとまったんだろうと思います。とくに山本幸治チーフプロデューサーの存在はすごく大きかったですね。先日、シンガポールのアニメイベント(AFA2013)に行ったときも2人きりになることがすごく多くて。いろいろな角度のお話ができたんです。社外のプロデューサーで、ここまでお話をした方は山本プロデューサーがはじめてだったので、今後の勉強になりました。
作品を重視した楽曲に
作品が後押しされる
ノイタミナ作品というと、音楽面も特徴のひとつだと思います。『PSYCHO-PASS サイコパス』でも、オープニング・テーマやエンディング・テーマは特徴的でしたね。凛として時雨がオープニング・テーマを担当するとは驚きでした。
塩谷そうですね。最初『PSYCHO-PASS サイコパス』のオープニング・テーマの方向性ってすごく難しいだろうなと思っていたんです。今の時代の空気を踏襲していて、なおかつそれをひと回り先に行っているような音楽性がないと、作品の前にくるオープニング・テーマにふさわしくないんじゃないかと。どんなアーティストがいいんだろうと考えていたときに、時雨さんの名前をあげていただいて。楽曲を聴かせていただいたときに「これはおもしろいな」と。作品にすごくフィットしていて、制作現場にとっても大きな刺激になりました。
エンディング・テーマはEGOIST。EGOISTは『ギルティクラウン』でデビューした、ノイタミナが育てたアーティストと言ってもいいかもしれません。
塩谷時雨さんも、EGOISTさんも、オープニング・テーマの役割やエンディング・テーマの意味をよく捉えていらっしゃるんですよね。すごく印象的だったのはEGOISTさんがエンディング・テーマを決めるにあたり、候補曲を5曲もつくってくださったんです。そのうえで、どんな曲が良いんですか? とすり合わせていくことができたんです。こちら側のリクエストを理解していただいたうえで、作品を重視した楽曲をつくってくださったことには本当に感謝しています。
エンディング・テーマはいくつかのパターンがありましたね。
塩谷そうなんですよね。『名前のない怪物』は3バージョンいただきました。各話のクライマックスにあわせて、エンディング・テーマの入り方を変えさせていただいて。そのあたりも、アーティストさんとソニーミュージックさんが、作品を重視してくださったから実現したことですね。ありがたかったです。
※橘正紀監督は、かつて神山健治監督作品『攻殻機動隊S.A.C』で活躍した演出家だった。いわば同門の先輩後輩の間柄。
(続く)