NOITAMINA
OFFICAIL WEBSITE

SHARE

ノイタミナオンデマンドCREATORS INTERVIEW

『ノイタミナ』に携わるクリエイター達にスポットを当てたインタビュー記事を公開

Special Interview

中村健治Kenji Nakamura

001-B

PROFILE
『怪 ~ayakashi~「化猫」』シリーズディレクター、『モノノ怪』シリーズディレクター、『墓場鬼太郎』オープニング/エンディング絵コンテ・演出、『空中ブランコ』シリーズディレクター、『C』監督、『つり球』監督
「10年といったら、それは「歴史」になっていると思います」

「映像のインパクト」に特化した

『墓場鬼太郎』のオープニング映像

さて、インタビューも後半戦。前回からの続きで中村監督のノイタミナフィルモグラフィを振り返りたいと思います。中村監督は『墓場鬼太郎』のオープニングをつくっていますね。

中村あれは、ある日東映アニメーションの偉い人から電話が掛かってきて、「遊びにおいでよ」って言われて。「おいしいご飯が食べられるのかな?」と思って行ったら、『墓場鬼太郎』の仕事を依頼されたんです。最初は断ろうと思ったのですが、友人の地岡(公俊)君がシリーズディレクターと聞いて「やります。」と。東映アニメーションの方は僕の扱いをよくご存じです(笑)。そんなスタートだったのですが、できあがっている本編を見せていただいて、原作と脚本を全部読んだら『墓場鬼太郎』のファンになっちゃったんですよ。復刻版のカラーページの配色が素敵だったし、作者の水木しげるさんの辛口なユーモアがビンビンに僕の好みだったんですよね。地岡君が本編で、原作の白黒ページを映像化するなら、僕はオープニングで、原作のカラーページを映像化しようと。色彩設計の辻田邦夫さんともお話して、アニメーターの橋本敬史さんに筆で作画してもらって。作者の水木先生が喜んでもらえたらいいなと思ってつくりました。

オープニング・テーマは電気グルーヴの「モノノケダンス」でした。

中村最初にデモテープを聴いたときに「難しい曲だな!」と思ったんです。オープニング映像をつくるときは、映像を歌詞にあわせるか、リズムにあわせるか、メロディにあわせるかを考えるんですが、すごくハイテクニックな曲だったので、あえて画面を動かさないようにしようと。ちょっと天邪鬼(あまのじゃく)なオープニング映像をつくりました。

中村監督のターニングポイント

となった作品たち

次の監督作品は『空中ブランコ』。こちらもテーマ曲は電気グルーヴでした。

中村『空中ブランコ』は自分にとってもターニングポイントになった作品です。何が大きかったかというと……取材をしたことですね。この作品は「現実におきうること」を扱っているので、精神科医の方々にお話を聞きにいったんです。専門家に話を聞きにいくと、自分が想像してもいなかったことが聞けて、いまネットやTVで流れている情報は古いんだなってことがわかるんですよ。最先端の研究では人間の脳がどこまでわかっていて、人間の心がどうなっているのかがわかっていて。精神を病んでる人は、弱い人でも落ちこぼれている人でもない。そういう人がいる職場や家庭に問題があって、そういう環境に身を置くと、いずれ誰もが悪影響が出てくる……。いわば精神を病んでいる人は「炭鉱のカナリアのような人」なんだと教えていただいたんです。それを聞いたとき、僕らは頭が勝ち割られるくらいのショックを受けました。そういう取材の成果もあったので、作品を真面目につくろうと思ったんです。やはり、TV放送である以上、チャンネルをまわして偶然観てしまう人がいるわけで、その人たちが誤解しないように責任感を持ってつくろうと。そこで物語を真面目につくるかわりに、映像面で攻めようと思って。それで実写を取り込んだ映像をつくったんです。でも……「『空中ブランコ』が一番好きです!」とおっしゃってくれる方もいるんですが、ついてこれなかった視聴者の方もいて、個人的には反省もある作品ですね。

『空中ブランコ』の視聴者の反応を踏まえて、その後の作品に反映されたりなどはありましたか?

中村反映しまくりですね! 次の監督作品『C』のときは、ルック(見た目)をもう少しアニメユーザーを意識したものにしようと思いました。当時、pixivのようなイラストに注目が集まるような時代になっていたので、イラストレーターのかたにキャラクター原案をつくっていただいて、コラボレーションしていこうと考えました。あと、今回は映像のトンガリ感を抑える代わりに、ドラマをちゃんとつくろうと思ったんです。反省もある『空中ブランコ』ですが、シナリオは間違いなくおもしろかったし、今回も取材をしっかりしてから物をつくろうと。原作づくりをしっかりつくり込む方法論に徹したんです。

『C』のテーマは「経済」。とてもインパクトがありました。

中村「経済」に関しては元々興味があって、個人的に本読んだり調べたりしていたんです。ただ「経済」は答えが出ていないんですよ。そこで取材をして、いろいろな流派の経済学者にお話を聞くことにしました。金融派生商品や、国債など、いろいろな経済シミュレーションを教えていただいたんですが、みんな最後の結論は同じで。「いつか大きな金融危機が来る」「数年後に破たんする」というものでした。これは作品にするしかないという使命感がわいて。とりあえず日本を舞台にして、ミダスマネーという株にも、国債にも、お金にも見えるようなものをつかった物語をつくったんです。『C』を観た人たちは「何いっちゃってるの?」と思う人がいたかもしれないけど、とにかく「みんな備えろ!」というメッセージが伝わればいいと思っていたんですよね。でも、実際には備える時間はほとんどありませんでしたね。すぐに金融危機が起きてしまった(笑)。

リーマン・ショックからはじまるユーロ金融危機ですね。

中村僕らもすごくびっくりしたんですよ。あの時期(2011年)に『C』をつくることができて良かったと思います。

その後、中村監督は『つり球』をおつくりになります。これはノイタミナ作品の中でも人気作として名高い傑作です。

中村制作スタジオが『モノノ怪』や『空中ブランコ』は東映アニメーション、『C』はタツノコプロダクションとスタジオを転々としてきたのですが、『つり球』はA-1 Picturesで、メーカーがアニプレックスだったんです。ここがもっともインパクトがありましたね。当時の女性プロデューサーから「男の子が出るアニメにしてほしい」「青春」という明確なオーダーがあって。それがすごく新鮮でした。

中村監督はそういうオーダーをどう受け止めるんですか?

中村僕は本当はインタビュー型なんですよ。自分がつくりたいものを押し進めるよりも、オーダーしてくれた人の話を聞いて、作品をつくっていくタイプ。オーダーにあわせて(作品を)デザインするのが僕の仕事で、僕なりの制作システムでつくっていくのが仕事なんです。『つり球』のときは周りのスタッフがほぼ女性だったし、「『釣り』でつくってほしい」というリクエストもあったので方向性は決まっていました。

そうして出来上がった『つり球』ですが手応えは如何でしたか?

中村『つり球』で印象的だったのは、イベントに参加しとときに、グッズのタピオカのぬいぐるみをガッシリ抱いて参加してくれてるお子さんがいて…、これまでの作品であまりそういうことは無かったので、その光景にはグッときちゃいました。

そして、10年目の

ノイタミナにかけることば

これまでノイタミナ作品を5作品手掛けていらっしゃいましたが、これからのノイタミナに期待することはありますか?

中村続いていってほしいなっていうのがまず一番ですね。どんな形でもいいです、テレビ枠じゃなくなって、ウェブ枠でもいいし、それこそこれからいろいろな展開ができると思う。ノイタミナも10年目。10年といったら、もう「歴史」になっていると思うんです。だから、何を残して、何を変えていくのか。いまはみんなHDDレコーダーで録画して、PCで作品を見たりする時代でもあるので、いろいろなかたちで「ノイタミナ」というキーワードが広がっていくといいなって思っています。

最後にノイタミナ10年目に手向けるメッセージをいただけると。

中村「まだまだ10年だよ」ですね。うん、それがいいかな……。

次の中村監督作品を楽しみにしています! どうもありがとうございました。(終わり)

TITLE

閉じる